今回はこんな方々に向けた記事になります!
- 「人事労務関係の実務を行っている」
- 「社労士試験対策の法改正を学習中である」
- 「自己研鑽のためにも最近の人事労務の法改正が知りたい」
1. 2022-2023年社労士・人事労務界隈での主要法改正10選
2022年から2023年にかけても多くの労働法で重要な法改正が行われました。
その中でも多くの人に影響力が大きいものと言えば、以下の3点でしょう。
- 中小企業の月60時間以上の割増賃金率の引き上げ
- 賃金デジタル払の解禁
- 出生時育児給付金の創設及び育児休業にかかる周辺の制度の改正
その他にも避けられない重要な話題が沢山あります!
順番に見ていきましょう。
①【労基】中小企業の月60時間超にかかる割増賃金率の引き上げ
大企業においては、2010年から当該割増賃金率の適用がされていましたが、遅れること13年、2023年4月1日から、ついに中長期業にも月60時間超にかかる割増賃金率の特例が適用されることになりました。
出典:厚生労働省
この改正によって、慢性的な人員不足により長時間労働が常態化しがちな中小企業の労働環境にもメスを入れたといったところでしょうか。
この改正により、通常の時間外の際に割増賃金が25%加算されているところに、月60時間を超える時間外労働からは、そこにさらに25%加算した、計50%の割増賃金の支払いが求められるようになりました。
②【労基】賃金デジタル払いの解禁
2023年4月1日から、キャッシュレスの浸透に伴い、賃金についてもデジタル払いが認められるようになります。
具体的にデジタル払とはどのようなことを指すのでしょうか。
- 「○○ペイ」
- 「○○ポイント払い」
のようなキャッシュレス決裁口座への給与の振り込みを指します。
ただし、このような振り込みに対しては、いくつかの制約も課されています。
- 労使協定の締結
- 本人の同意
- キャッシュレス決裁口座以外の選択肢も用意する必要性
- 現金化できるキャッシュレス決裁口座だけが対象
労働の対償としての賃金ですから、これだけ慎重な取扱いになるのも納得です。
③【安衛】歯科健康診断結果報告書の提出義務拡大
続いて労働安全衛生法についても、複数の細かな法改正が実施されています。
2022年10月1日から、他の特殊健康診断と同様に、歯科健康診断の報告義務についても、実施状況を正確に把握し、その実施率の向上を図るため、実施報告の義務付けがなされることとなりました。
この報告については、事業所の人数に関係なく、所轄労働基準監督署長への報告が求められるようになりました。
④【安衛】職長安全衛生教育の対象業種の拡大
2023年4月1日から、これまで安全衛生の職長教育の対象となっていなかった以下の2業種についても、新たに化学物質の追加と共に適用拡大されることとなりました。
- 「食料品製造業(うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業を除く。)」
- 「新聞業、出版業、製本業及び印刷物加工業」
これによって、職長教育の必要な業種をまとめると、以下のようになります。
一 建設業
二 製造業。ただし、次に掲げるものを除く。
イ たばこ製造業
ロ 繊維工業(紡績業及び染色整理業を除く。)
ハ 衣服その他の繊維製品製造業
ニ 紙加工品製造業(セロファン製造業を除く。)
三 電気業
四 ガス業
五 自動車整備業
六 機械修理業
⑤【労災】一人親方等特別加入制度の対象に歯科技工士参入
近年ウーバーイーツや芸能関係者等、徐々に適用拡大しつつある、労災の特別加入制度ですが、2022年7月から更に「歯科技工士」が対象となりました。
対象としては、「一人親方等」の分類となります。
特別加入する際に支払いが必要となる、第2種特別加入保険料率は1000分の3となっています。
⑥【雇用】事業開始者の基本手当受給期間にかかる特例の創設
これまでは事業を開始した者に対しては、基本手当等の失業給付の受給は認められませんでしたが、2022年7月から、早期に事業を休廃業した場合の特例措置が、より手厚くなることとなりました。
基本手当受給期間にかかる特例の内容をまとめると、以下のとおりです。
- 事業を開始等した人が事業を行っている期間等は最大3年間雇用保険受給期間に算入しない
- 事業を休廃業した場合でも、その後の再就職活動にあたって基本手当の受給を可能とする
さらに、この特例の該当者となるための詳細な要件は次に示すとおりです。
- 事業の実施期間が30日以上であること
- 「事業を開始した日」「事業に専念し始めた日」「事業の準備に専念し始めた日」のいずれかから起算して30日を経過する日が受給期間の末日以前であること
- 当該事業について、就業手当または再就職手当の支給を受けていないこと
- 当該事業により自立することができないと認められる事業ではないこと
- 離職日の翌日以後に開始した事業であること
⑦【雇用】出生時育児休業給付金の創設
こちらは、ここ最近で特に注目された法改正ではないでしょうか。
少子高齢化対策のため、より円滑に男性も育児休業を取得できるようにするため、2022年10月1日から、子の出生後8週間以内に4週間まで取得することができる出生時育児休業(産後パパ育休制度)制度が創設されました。
出生時育児休業(産後パパ育休)を取得した場合には、「出生時育児休業給付金」を受給できます。
詳細な制度の内容は以下のとおりです。
支給要件 | 1. 休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は就業している時間数が80時間以上の)月が12か月以上あること 2. 休業期間中の就業日数が、最大10日(10日を超える場合は就業している時間数が80時間)以下であること |
支給額 | 休業開始時賃金日額(原則、育児休業開始前6か月間の賃金を180で除した額)×支給日数×67% |
申請期間 | 出生日の8週間後の翌日から起算して2か月後の月末まで(2回まで分割して取得可だが、1回にまとめての申請が必要) |
⑧【徴収】雇用保険率の引き上げ
さて、こちらの話題も、物価高のニュースと共によく耳にする法改正だったのではないでしょうか。
2022年4月に引き続き、同年10月にも雇用保険料の引き上げが実施されました。
そしてさらに2023年4月にもその引き上げ率は留まるところを知らず…
出典:厚生労働省
⑨【労一】労働者協同組合法の施行
2022年10月1日から、政府の肝入りで「労働者協同組合法」が施行されました。
「労働者協同組合」とは、労働者協同組合法に基づいて設立された法人で、組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織を指します。
この定義は以下のように、図解にした方が分かりやすいかもしれません。
出典:厚生労働省
労働者協同組合を作るメリットとして、次のことが挙げられます。
- 主体的かつ自由度の高い働き方ができる
- 3人以上の発起人がいれば簡単に作れる
- 地方自治体と連携した事業も行いやすい
株式会社と異なり、株主等に事業が指図されることがありません。
また同様にNPOとも異なるため、自分たちでの出資も可能で、資金が集まらない理由から事業を制約されることも少ないと考えられます。
多様な働き方が認められる今、より自由で主体的な労働が可能な労働者協同組合も、今後の労働環境に一石を投じるかもしれません。
⑩【労一】男女の賃金差異にかかる情報公表の義務化
最後は女性活躍推進法の法改正です。
2022年7月1日より、男女間賃金格差の更なる縮小を図るため、情報公表項目に「男女の賃金の差異」を追加するともに、常時雇用する労働者が301人以上の一般事業主に対して、当該項目の公表が義務づけられることとなりました。
男女の賃金格差はいまだに大きく隔たりがあり、男性労働者の賃金を100とすると、労働者は75ほどで、4分の3ほどの水準に留まるとされています。
今後の健全な経済の発展及び、開かれた労働環境の推進のためには、国からの強制力は必要不可欠であったと考えるべきでしょう。
2. 目まぐるしく変わる法改正をしっかり押さえておきましょう!
より良い労働環境の醸成に合わせて、労働法の法改正も常に検討され、実施され続けています。
社労士でなくても、人事労務担当者でなくても、「労働を提供する」立場であるならば、知っておいて損はない情報ばかりです。
- 「少しでも自分が働きやすくなるため」
- 「将来の働き方を考えるため」
- 「より賢く生きたいため」
自身を取り巻く労働環境及び労働法の移ろいに少し注目してみませんか。
それでは、また!